ガルシア=マルケス『百年の孤独』。
2024年の発売からかなりの時間をおいて、最近読み終わった。家系図に栞を挟みつつで、登場人物の名前を把握出来るようになって以降……後半部分からは加速度的に面白かった。再度書くけれど、同じ名前を持つ人物があまりにも多いので、その段階で多くの挫折者が出るのは間違いないと思う。冒頭の家系図をどうも有難うございます、という気持ち。
物語としては、いかにも1800年代のコロンビアに存在していそうな架空の町「マコンド」を舞台に、ホセ・アルカディオ・ブエンディアとウルスラの夫婦に始まるブエンディア一族の百年を、ある意味淡々とした調子で綴っている。一族というよりはひとつの家族がまるごと作品の視点になっているので、彼らが暮らしている家……建物自体の繁栄と衰退も象徴的に描かれてゆく。廊下に飾られるベゴニアや薔薇やオレガノなどの植物に対しても、部屋を荒らす蟻やムカデや蛾などの生物に対しても、妙に鮮やかな印象を受けた。
ブエンディア一族の長い百年の中では、登場人物にとって様々な悲喜こもごもが当たり前のように起こり続ける。そんな「家家」の世界の外側を、開拓や戦争や内乱や異文化流入や、信仰やデモや虐殺、某バナナ会社の設立や解体に至るまで、規模の大きなモノたちが数多く取り囲んでいる。それは時代に沿った歴史の確かな側面だ。しかし、その一方で、現実離れした出来事もまた当たり前のように起こり続ける。あまりにもおかしな出来事が連なってゆくので、正直、読んでいて笑ってしまう箇所もかなり多かった。幻想にしてはやけに生々しいし、登場人物の内面の真剣さが逆にこちらの笑いを呼び覚ますような感覚。
そして、タイトルの『百年の孤独』の通りに、ブエンディア一族の面々は、人生の途中でどんなに富や名誉や愛や栄光に近いものを手にしたとしても、宿命づけられた孤独で死んでゆく。彼ら全ての死に方は孤独ではあるものの、どこかしら満ち足りたようにも見えてしまうので、心のどこかで羨ましさを感じるような、そんな死に様だった。
最後の死者が出て文字どおり家が絶えるまでの百年は、メルキアデスが書き残した予言の通り、もしくは予言自体が物語そのものという仕組みであるがゆえに"入れ子構造だけれど一族はマコンドの町ごと滅び去るのでどちらが先で後なのか"という妙な感覚も伴ってくるのが興味深かった。
好きな登場人物はアマランタ。心の内に強い情熱を燃やしながらも愛を拒み続け、手に黒い繃帯を巻き続けながら経かたびらを織り、年老いてなお美しい姿をした生娘のままで死んでゆく姿がとても良かったと思う。
ブエンディア一族が百年の孤独ののちに辿り着いた愛には、逃げ道も回答も存在せずに、因果のみがぽつんと形になって立ち表れてくる。それもまたすぐに掻き消えてしまって、予言書もマコンドの町もそれを取り囲む世界も何もかも、跡形も残らない。いっそすがすがしくて、心地良い読後感。
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